ハガルをアブラハムに勧めたのは、妻のサライ(サラ)でした。ハガルは、エジプト出身の女奴隷でサライに仕えていました。たぶん、エジプトのパロから贈られた男女の奴隷(創世記12章16節)の一人だったのでしょう。
サラがアブラハムにハガルを勧めた理由は、夫が子どもを欲しがっているのが、痛いほどわかったからでしょう。神様が何度もアブラムに、「あなたの子孫を地のちりのように、空の星のように増やし、祝福しよう。あなたの子孫にこの地を与える」と約束されたのです。ところが、二人の間に子供が与えられる様子はありませんでした。アブラムもサラもだんだん年をとっていきました。サラが子どものできない体であるのは、確実であるように思われました。
そんな時、当時は、妻は自分の女奴隷を夫に与えて、子どもを生ませたのです。サラはそのような社会のモラルに従ったのでしょう。
けれども、建前と本音の感情は別です。夫がほかの女を迎えて、その女に子供ができて喜ぶ妻はいないでしょう。
また、ハガルにしても、アブラハム・サラ夫婦は主人でしたが、ひとたび、アブラムに迎えられ子どもができると、それまでの気持ちが変わるでしょう。主人の子どもを生むのです。奥さんと対等な気分になってきます。奥さんに出来なかった子どもをあたしが生むと思ったときに、しぜん、傲慢になったのでしょう。
二人の女は、たちまち対立状態になります。
そこでサライはアブラムに言った。「私に対するこの横柄さは、あなたのせいです。私自身が私の女奴隷をあなたのふところに与えたのですが、彼女は自分がみごもっているのを見て、私を見下げるようになりました。主が私とあなたの間をお裁きになりますように。」(創世記16章5節)
アブラムはサライに言った。「ご覧。あなたの女奴隷はあなたの手の中にある。彼女をあなたの好きなようにしなさい。」 それで、サライが彼女をいじめたので、彼女はサライのもとから逃げ去った。(16章6節)
女として、サライの身になってみると、サライの嫉妬はわかる気がします。けれども、ハガルの身になってみると、主人の望みどおりみごもって、どうしていじめられなければならないのと、たまらない気持ちになったことでしょう。衝動的に、夫婦から離れて、荒野へ飛び出したのかもしれません。とはいえ、荒野は着の身着のままの女が、ひとりで旅をするには危険な場所です。行き倒れても、猛獣や盗賊に殺されてもふしぎではありません。
アブラムがハガルの家出を、いつ知ったかわかりません。この危なっかしいハガルの逃避行を、すぐに気にかけて下さったのは、神様でした。
主の使いは、荒野の泉のほとり、シュルへの道にある泉のほとりで、彼女を見つけ、
「サライの女奴隷ハガル。あなたはどこから来て、どこへ行くのか」と尋ねた。彼女は答えた。「私の女主人サライのところから逃げているところです。」(8節)
そこで、主の使いは彼女に言った。「あなたの女主人のもとに帰りなさい。そして、彼女のもとで身を低くしなさい。」(9節)
また、主の使いは言った。「あなたの子孫は、わたしが大いにふやすので、数え切れないほどになる。」(10節)
それから、主の使いは、ハガルが男の子を産むこと、その子をイシュマエルと名づけるること、イシュマエルは野生のロバのようなたくましい人になること、などを告げます。
主の使いの顕現は、ハガルにはどれほどの衝撃だったでしょう。ハガルがもともと住んでいたエジプトの神ではないのです。
彼女は、自分に語りかけられた主の名を、「あなたはエル・ロイ」と呼んだ。それは、「ご覧になる方のうしろを私が見て、なおもここにいるとは」と彼女が言ったからである。(13節)
エジプトの神は太陽だったり、蛙だったり、牛だったりと、名前も形もある偶像です。主の使いとの出会いは、彼女にとって驚くべきことだったでしょう。
ハガルは主の使いが去っていかれるその後姿を見ました。
そして、「これほどはっきり、神様が自分を気にかけて現れてくださった。それなら、こんなところにいてはいけない!」と、気がついたのです。
アブラハムに現れて祝福してくださった神、天地万物を創造されたアブラハムの神は、こうして、異教徒であるハガルにも憐れみをかけてくださり、祝福を下さったのです。
ハガルはアブラハムのところに戻って男の子を産み、神の使いがお示しになったように、その子をイシュマエルと名づけました。
Coffee Breakも43回になりました。
いつも読んでくださって、ありがとうございます。
数が増えたので、ふりかえって読み直すためにも
小見出しがあったほうがよいとの、
ご提案がありましたので、
ナンバーとともに、小見出しをつけました。
これからも、よろしくお願いします。
なお、ここで使っているのは、新改訳聖書です。
ほかにも、新共同訳、リビングバイブル、現代語訳
口語訳聖書などがあります。
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